駄文書きの屋根裏部屋

ネット駄文書きの備忘録です。ネット小説や出版作品について、あれこれと語ります。

将棋向手前持駒有成不成変数〜江戸時代の組み合わせ論

はじめに

将棋向手前持駒有成不成変数というものを、ご存知だろうか。私も最近知ったのだが、千葉大学北詰先生のHPに名前だけが載っているという代物だった。江戸時代の高名な和算家で将棋指しでもあった久留島喜内(????〜1758)の発案らしい。

気になって調べてみたところ、『明治前日本数学史〔新訂版〕』第3巻、1979年、66頁に「これは将棋の駒に関する変数の問題である」とのみ書かれている。収録作品は『久氏遺稿』(天地2巻本ではなく関算後伝32収録)となっていた。大学のレファレンスセンターで調査したところ、東アジア数学史研究会〔編〕『関流和算書大成:関算四伝書』の第1期第3巻にみつかった。早速取り寄せてみたところ、案の定、漢文であったが、なんとか半日かけて解読に成功したと思われるので、本稿で紹介したい。

本文

原文

術曰各数加一甲加二乙加三丙加四丁加五戌相乗為實

一二三四五相乗為法除實変数

金将無戌故甲乙丙相乗為實

一二三相乗為法除之変数

歩兵変数三万三千六百四十九

香車百二十六

桂馬百二十六

銀将百二十六

金将三十五

角行二十一

飛車二十一

(以下略)

現代語訳

この術は、次のように言う。それぞれの(駒の)数xに、1を加えたものを甲、2を加えたものを乙、3を加えたものを丙、4を加えたものを丁、5を加えたものを戌とする。甲乙丙丁戌を掛け合わせたものを實とする。

1*2*3*4*5を法として、これで實を割ったものを、変数と呼ぶ。

歩兵の変数:33649

香車:126

桂馬:126

銀将:126

金将:35

角行:21

飛車:21

公式化

うえの解読にかなり時間がかかったのだが、公式は逆算で導出できた。

(x+1)(x+2)(x+3)(x+4)(x+5)/5!

金の場合のみ、

(x+1)(x+2)(x+3)/3!

となる。

解釈

一般論

さて、この公式の数学的な意味は、なんだろうか。これに気づくのに、時間がかかってしまった。階乗で割っているので、おそらくは組み合わせ論であろう、と考えたのだが、高校までの組み合わせで習う一般的な公式、例えばnCrなどは、マイナスで表記されるはずである。1から5までを順番に足す意味が分からない。

あれこれ悩んだ末、学部生と盤で検討したところ、これが盤上における駒の組み合わせのパターンであると判明した。例えば、飛車変数は21であるが、これは、盤上にある飛車の数が2枚であるから、x=2とおいて、

(2+1)(2+2)(2+3)(2+4)(2+5)/5!=21

となる。

具体例としての飛車

さて、盤上におけるパターンとは、どういう意味か。これが問題であった。というのは、1マスずつ丁寧においていくと、明らかに21は少な過ぎるからである。そこで目をつけたのが、この術のタイトルであった。

  • 向:駒が相手の方向をむいている。
  • 手前:駒が私の方向を向いている。
  • 持駒有:駒台を2つ追加する。
  • 成不成:駒を成ったり成らなかったりする。

図解

これを参考にして飛車を配置すると、以下のように21通りできる。

 

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まとめ

以上から、以下のことが分かる。

  1. 将棋向手前持駒有成不成変数とは、ある種類の駒について、盤上および駒台のうえに何通り並べることができるか、を表す組み合わせの数である。
  2. 将棋向手前持駒有成不成変数は、x個のユニットをn-1個の領域に置くゲーム全般について拡張することができる。

江戸時代に組み合わせ論があったことは周知の事実かと思うが、ゲーム上のユニットについてこれを拡張したものが存在したのは、新しい発見かもしれない。ほかにも和算でこのような計算をしている情報があるならば、ご教示願いたい。